障害児訪問保育アニー訪問看護師の1日に密着
障害児訪問保育アニー 訪問看護師
片岡 幸子
一般の保育園に通うことのできない障害のあるお子さんをご自宅で保育する「障害児訪問保育アニー」では、看護師がお子さんの自宅に巡回に伺い、健康状態も専門的に見守っています。アニーで訪問看護師を務める片岡の1日に密着しました。
こんにちは、広報のえみりーです。
フローレンスでは保育士、医師、看護師、作業療法士…など、さまざまな専門職スタッフが働いていますが、その中に「ジャンヌ」と呼ばれるチームがあります。フランスの百年戦争に終止符を打った救世主として有名な女戦士ジャンヌ・ダルクが想起されますが、実はフローレンス内にある「訪問看護ステーション」の名前なのです。
フローレンスでは、「障害児保育園ヘレン」の施設内で勤務する看護師のほか、訪問看護という舞台で活躍する看護師がいます。
病気のお子さんをご自宅で保育する「訪問型病児保育」、また一般の保育園に通うことのできない障害のあるお子さんをご自宅で保育する「障害児訪問保育アニー」では、保育者だけでなく、看護師がお子さんの自宅に巡回に伺い、健康状態も専門的に見守るのがフローレンスの訪問型保育の大きな特徴だからです。
では「ジャンヌ」の訪問看護師達はどんな風に働いているのでしょうか?
今回は、「障害児訪問保育アニー」の訪問看護師を務める片岡(通称:かたぴ)に密着しました。
「えみりー、絶対スニーカーで来てね」と前日念押しされ、集合場所へ!
障害児訪問保育アニーの訪問看護師のある1日
朝8:30 訪問看護師かたぴの1日が始まりました。
一件目の訪問先はHちゃん(2歳3ヶ月)宅。駅から徒歩10分ほど。
9:00 Hちゃん宅到着。
Hちゃんの担当保育スタッフ金子(通称:ねこ先生)は、お父さんから引き継ぎを受け、お仕事に出かけるお父さんをHちゃんとお見送りするところです。
9:10 Hちゃんの体調をチェック。
看護師はご家庭からの引き継ぎノートを確認した後、お子さんの体調を看ます。Hちゃんは、心臓疾患があり酸素吸入器具をつけながら生活をしています。そのため酸素飽和度や心拍は訪問するとすぐに確認し、担当保育スタッフとご家庭にフィードバックします。
看護師の訪問をいつも心待ちにしているHちゃん。「かたぴしゃん、来たー!」と喜んで体調のチェックを受けます。訪問看護グッズがお気に入りで、使用後の器具消毒もHちゃん自らが慣れた様子で行っていました。かたぴがHちゃんに「お任せ」しているお仕事だそうです。
子どもの「やりたい気持ち」をアニーのスタッフは大切にしています。どんなに小さなことであっても、「できた!」という喜びに繋げてほしいから。
9:15 Hちゃんの朝の会
朝のご挨拶の歌をHちゃんとねこ先生、かたぴの3人で歌い、朝の会がスタート。
看護師は、訪問する時間に合せて、そのとき提供されている保育に、積極的に参加します。楽しい1日のスタートを予感し、Hちゃんもご機嫌です。「今日は何月何日何曜日ですか」と優しく尋ねるねこ先生。シールやカレンダーを使って毎日する朝の会なので、数字や月の名前もすっかり覚えているHちゃんです。
9:30 おうち保育園ごたんだ園へ交流保育に出発。しかし!
この日はフローレンスで運営する近隣の「おうち保育園」に交流保育に行く予定で、Hちゃんも楽しみにしていました。普段から障害児訪問保育アニーの子ども達は地域の保育園やフローレンスの「おうち保育園」を訪れ、園児と一緒に遊んでいます。
交流保育は、アニーの子ども達の発達に大きく影響します。例えば、Hちゃんは「おうち保育園」の園児がコップで飲み物を飲んでいるのを見て意欲が芽生え、飲めなかった「コップ飲み」ができるようになりました。また、それまでどうしても履きたがらず大人を手こずらせていた靴下を、外遊びの際、園のお友達が靴下を履くのを見た翌日からあっさり履くようになったこともあるそうです。
Hちゃんお気に入りのお友達「かっぴくん」にも会えるはずだったのですが……。
玄関を出たところで、ねこ先生の携帯がなりました。「…おうち保育園、インフルエンザが出たから今日ダメになっちゃった。」
残念ですが、気を取り直してHちゃんの大好きな近所の「電車公園」に行くことにしました。訪問看護師かたぴも一緒に移動します。アニーの保育は自宅に留まらない保育環境のため、訪問看護師が送迎に同行することが、よくあります。
子どもの体調管理や安全はもちろんのこと、保育スタッフが1人では不安な点などをフォローする一方、保育スタッフ1人の時も安心して出かけられる方法を一緒に考えサポートしています。
道中、Hちゃんが興味を示すものがあれば、必ず立ち止まってそちらを観察しながらHちゃんのペースで散歩をする3人の姿が印象的でした。
外出時にはもちろん酸素ボンベを持ち歩きます。今回は近所の公園までなので6リットルのタンクですが、12リットルのものを持ち出すこともあります。こうした医療機器の取り扱い方法やトラブル対応も、医療従事者である看護師の出番です。
公園には近隣保育園の子ども達が遊びに来ていました。
Hちゃんはもうすぐ心臓の手術を受けます。年齢と共に体重が増えて体力がついてきたこと、障害児訪問保育アニーのサービスを利用するようになり、大きな感染症も起こさず体調が安定してきたことで、この手術に踏み切ることになりました。おそらく術後には酸素器具が外れ、アニーを卒業して一般の保育園に入園できるようになるだろうと言われています。
「いつか、Hちゃんもこの子達と一緒に走り回れるようになるんだね」と優しい眼差しで見守るねこ先生と看護師かたぴ。
Hちゃんの遊んでいる様子を携帯で撮影しているねこ先生。
えみりー「熱心に撮っていますね」
ねこ先生「保護者と写真や動画を共有しているんですよ。あとはアニーの現場と本部スタッフチーム内でも共有しているので、お預かりしている各お子さんの成長を皆で喜べます。それから、おじいちゃんおばあちゃんがお迎えの時にも日中の様子を見ていただいたり、お誕生日会の時にビデオや写真があるととても喜んでいただけます!」
10:30 徒歩で次の訪問先へ移動
Hちゃんとお別れして、次の訪問先であるKくんのお宅へ徒歩で移動。
えみりー「けっこう歩くんですねー」
かたぴ「うん、だいたい1日3~4件を訪問するから、平均2万歩くらい歩くよ。入社前は少し体重が気になってたんだけど、訪問看護師になってすぐにスッキリ体型になりました!」
えみりー「とてもお孫さんがいらっしゃる歳とは思えない…!」
Kくんのお宅では担当保育スタッフの伏田(通称:りっちゃん)と細川(通称:ペコちゃん)が、Kくんを保育中。
こちらでは、既に保育の時間に入っていたこともあり、保育スタッフから体調の報告を受け、ご家庭からの引き継ぎノートを確認しながらも、まずはKくんとの遊びに自然な形で入っていくかたぴ。体調のチェックが訪問看護師の本分ではあるものの、進行形で行われている保育を邪魔しないように、臨機応変に場に入っていくことが求められます。
例えば、Kくんは、お熱計測も聴診器もあまり好きではないようで体調チェックは一苦労ですが、楽しく「ピッピ」できるように3人であやしながら進めます。看護師は保育スタッフと違って「医療機器」を持った大人。子どもによっては不安に思うかもしれません。でも、「こわくないよ」「嫌なことはしないよ」とその子が信じられるよう丁寧に信頼関係を築くことを大切にしています。
Kくんは、昨年までは鼻からチューブを入れて食事をする経管栄養の器具をつけていましたが、先月胃ろうの手術をして鼻のチューブが取れたところ。術後は、体調もさることながら気持ちも神経質になっていたため、保育スタッフも看護師も経過を注意深く見守ってきました。最近は落ち着いて、それと同時にずいぶんお兄さんになったとのことです。
発語が多くなり、表情が豊かになりました。手足の動きがダイナミックになり感情を身体全体で表現できるようになってきました!
保育スタッフとかたぴは、Kくんを色々な遊びに誘い、次々にKくんの関心をひいて反応を引き出していきます。風船を顔の前に持っていきゆっくり動かしたり、柔らかいマットを握らせてどんな行動をするかを見たり、脚が突っ張ると手でほぐしながら手のひらや足の裏を刺激して反応を見ています。
接触に対し過敏だったKくんが、モノを自分から掴んで遊ぶことも、寝返りができそうなほど下半身に力がついてきたことも、目で物を追うしぐさも、少し前とは比べ物にならない成長だといいます。
一方で、さまざまな遊び、活動の中で、その子がもつ疾患や症状の背景を鑑みて、安全かどうかを確認するのも看護師の役目です。
この日は保育スタッフのぺこちゃんが、Kくんの視野について感じることをかたぴに相談していました。
アニーの保育スタッフは、障害のある子どもと1日8時間以上を一緒に過ごします。安全にお預かりしながらその子の発達を最大限に引き出す保育には、気を抜けない緊張が伴います。そして、子どもの小さな変化を一番身近で見ているスタッフだからこそ、発達や医療に関する専門的なアドバイスが欲しいと思うことが非常に多いそうです。
そんな時、訪問看護師は非常に心強い存在です。
アニーの訪問看護師は、子ども達の体調や発達を看ることと並行して、保育スタッフの心配事をゆっくり聞いて、不安を和らげることも大きな役目です。
かたぴも、保育スタッフ2人の相談に親身に耳を傾けていました。そして、2人が少しでも休憩が取れるよう積極的に保育に入っていました。
アニーでは、その子に合わせて感覚の発達を促していますが、それはトレーニングの視点からではなくあくまで「子どもが遊びを通じて発達をする」という保育の視点で行うもの。障害児というと、マイナスをゼロする感覚で「治療」を重視する人もいるかもしれませんが、子ども達は誰でも育つ力を持っています。それを引き出しプラスをつくっていくのだというメンタルモデルをフローレンスの障害児保育チームは共有しています。
体調面へのアプローチだけでなく、保育を通じて子どもたちが育つ環境と時間を築いていくのが、訪問看護師の特徴のひとつかもしれません。
「発達している速度が違うだけで、障害児もそうじゃない子も何も変わらない。子どもは自分の力で育つ力をみんな持っているから。」これは、障害児保育園ヘレン・障害児訪問保育アニーの保育スタッフ、看護師がよく言う言葉です。
11:30 受診予定の眼科へ向かう
子どもを取り巻くチームケアの一員として、アニーは「交流保育」「療育施設への通所」「摂食指導を受けに行く」などさまざまな予定に帯同します。連携先が医療機関であれば、その子をよく知る看護師が顔を出すことで、コミュニケーションがスムーズにはかれたり、普段の保育における疑問を率直に伝え解決する役割も果たしています。
この日Kくんは「眼科への通院」の予定があり、初めての電車移動でしたが、外の空気に触れて嬉しそうな表情のKくんでした。
この後かたぴは次の訪問先へと向かっていきました。
アニーの訪問看護師がどんな風にお仕事をしているか、少しご覧いただけたでしょうか。
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